漫画家・おかざき真里さん特別インタビュー

胚培養士をテーマに描くことで不妊治療に関する理解を深めたい漫画家・おかざき真里さん特別インタビュー小学館の青年誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載中の医療マンガ『胚培養士ミズイロ』。
そのリアルな表現が反響を呼んでいます。作者のおかざき真里さんに執筆の経緯や作品を通して読者に伝えたいことなどを伺いました。
漫画家 おかざき真里さん 6月15日生まれ。長野県出身。集英社「ぶ~け」で漫画家デビュー。代表作『サプリ』月9ドラマ化、『彼女が死んじゃった。』土9ドラマ化、『渋谷区円山町』『ずっと独身でいるつもり?』映画化、『かしましめし』ドラマ化。海外翻訳多数。最澄と空海を主人公にした『阿・吽』が2021 年 小学館「月刊!スピリッツ7月号」にて完結。現在、『胚培養士ミズイロ』(既刊2巻)を小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて、『かしましめし』( 既刊5巻) を祥伝社「FEEL YOUNG」にて連載中。

妊娠・出産を経ても知らなかった胚培養のこと

漫画としては珍しい「胚培養士」をテーマに描こうとされたきっかけは?

おかざきさん●それまで同誌で執筆していた『阿あ・吽うん』という作品がそろそろ終わりを迎え、次の連載のテーマを構想していた時、担当の編集者から「胚培養士という職業をご存じですか?」と尋ねられたのがきっかけです。

胚培養士は不妊治療の最終段階で卵子と精子を受精させる生殖補助医療を行う人。不妊治療に関しては、私自身、妊娠・出産を経験して周りに治療をしている方がたくさんいるということは知っていました。でも、不妊治療についての知識はほとんどなく、受精の作業はドクターがやっているのだと思っていたのです。

私がこの程度の知識なのだから、普通の人は絶対に知らないはず。不妊治療をされている方でさえラボについてはブラックボックスで、大事な卵は預けるけれど、ほとんど見えない部分の作業なのではないでしょうか。

それを漫画にすれば興味をもってくださる方がたくさんいるのではないかと思い、二つ返事で「ぜひ、そのテーマで描きたいです」とOKしました。

スタッフの会話シーンも細かいチェックを

漫画を描くにあたり、どのように不妊治療や胚培養士の情報を得ているのですか。苦労した点はありますか?

おかざきさん●実際に不妊治療専門クリニックに取材協力をお願いし、医師や胚培養士の方のチェックを受けながら描き進めています。ラボの内部も見せていただいたのですが、何をしているのかわからないくらい、みなさんの動きは素早くてスムーズ。最初はいつ何が始まって終わったのか、一つ一つ説明されないとまったくわかりませんでした。

胚培養士は医師ではないので患者さんに経過の報告はできるけれど、診断は下せない。「あれはできない、これはできる」という線引きも私たちにはわからないことがたくさんあります。どのような言葉遣いで表現すれば良いか、漫画的にスタッフ同士の会話が進むシーンなどもすべて胚培養士の方にチェックしていただいています。

胚培養士は職人であり、探求者、提案者でもある

作中ではドラマの展開だけでなく、不妊治療や胚培養について知識を説明する部分も多く出てきますが。

おかざきさん●これまで、意識してその部分を中心に描いているところはあります。取材をしているとほとんどが「へぇ~、へぇ~」と知らないことばかり。読者の方にも正しい情報を知っていただくために、まずはそれらを惜しみなく出していこうかなと思っていますね。

実際に胚培養士の仕事を見て、どんな印象をもちましたか?

おかざきさん●胚培養士を卵の職人さんと表現される方もいるようですが、それだけではなく、研究者肌で探求者でもある。いい意味でオタク的な印象も受けました。また、プランナーというか良き提案者でもありますよね。

ドクターと相談して「こうしたらどうだろう」「次はこのやり方に変更しよう」など、状況に合わせてベストな方法を提案していく。

みなさんいろいろな能力を持ち合わせているので、ひと言ではなかなか言い表せませんね。そういう部分もきちんと描くことで、職業という面から胚培養士についてもっと知ってほしいと思っています。

食卓の上に掲載誌を置き夫に読んでもらった人も

連載を始めてから読者からどんな反響があったのでしょうか。

おかざきさん●SNSで声を拾っているのですが、「夫にステップアップの説明をする手間が省けた」「夫が漫画を通して不妊治療に関して知識をもってくれていたので、治療がスムーズに進んだ」という感想を多くいただき、とても嬉しかったです。最初のほうであえて男性不妊のテーマを入れたのですが、夫に読ませるためにさりげなく食卓の上に掲載誌を置いたという方もいらっしゃいました。

女性は治療を受けるだけでなく、パートナーに説明もしなくてはいけません。その労力がこの作品をご主人に読んでもらうことで少しでも減ればいいなと。漫画なので、先生から説明を聞くより頭に入ってきやすいと思います。

職場など患者さんの周辺の人の理解を深めたい

最後に、この作品を通して読者の方に一番伝えたいことは何ですか?

おかざきさん●本当は治療されている当事者ではなく、周りの方に読んでいただきたくて青年誌に連載を始めたという想いがあります。

不妊治療は高度な治療にステップアップすればするほど、治療と仕事との両立が大変になってきます。病院の混み具合や治療の結果次第でスケジュールの変更を余儀なくされ、それは本人でもどうすることもできない。

そうなると職場の上司や同僚の理解が必要になってきます。これまで「うちの職場は関係ない」と考えていた方たちにも、作品を通して患者さんの事情や苦労を知っていただきたいと思いますね。

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